日本が結核の低蔓延国に
日本が結核の低蔓延国になったと新聞にありました。
結核菌は体の中で長く「休眠」状態になることができる性質を持っています。最近の結核発症は、高齢者がおおいことが特徴ですが、戦中戦後に少年時代を過ごした世代が高齢になり、体に入っていた菌が「再燃」して発症している状態でした。
低蔓延国になったということは、すなわちこの世代が寿命を迎え、生まれてから一度も結核菌に暴露されたことがない人が人口の大部分を占めるようになったということになります。
研修医時代に担当したSさんを思い出します。彼は脊椎カリエス(結核菌の骨感染による成長障害)で幼少期から酸素をつけた生活をされ、都営住宅で暮らしておられました。生活はいたって質素ですが、体は小さくとも、とても明るく、前向きで、尊敬できる魅力的な「患者さん」でした。結核が不治の病であった時代を生き残って来た方は「生きていることは当たり前ではない」といった人生観を皆さんお持ちであったように思います。
感染症が少なくなり、病気がなくなることが医療の理想ですし、そのために医師は研鑽を積み仕事をしています。ですが、「病という体験」が人生に与える意味などもすこしだけ考えてしまいます。(神谷美恵子の「生きがいについて」という名著があります)
すでにSさんはこの世にはおられませんが、低蔓延国のニュースを知ってきっと誰より喜んでおられるだろうなぁ。そんなことを思い出させる新聞記事でした。