テレビ画面越しでは「診断力」が落ちる事を知ってください
2週間以上37.5度以上の発熱が続くという方が来院されました。
コロナウイルスを大変心配されていました。私は原因を感染に限らず、のどを見たり、聴診や触診をして、長期に発熱をする疾患の鑑別を行いました。
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コロナウイルスへの対策として、「遠隔診療」が初診でも認められたとのニュースを見ました。「たかが風邪」なんだから、わざわざ医療機関にかからなくても画面越しで診断ができるだろうとの考えなのかもしれません。しかし、患者さんは「風邪薬をのんでもよくならない」ので、わざわざやって来るのです。
診断学の基礎として、症状に応じて、年齢、性別などから頻度が多い順に鑑別していく「診断アプローチ」があるのですが、それには、身体診察の情報が不可欠です。(少なくとも今の臨床医はその方法しか習っていませんー内視鏡や手術の立体視、ロボット手術など治療については「目や手の代わり」がありますが、診察を肩代わりできる視診・触診システムはまだ完成していません)
感染防止や医療崩壊の防止として、遠隔診療を推進することは理にかなっていると思います。しかし、その結果で「診断力」が落ちることは「利用者である患者さん」にも理解していただく必要があるのではないか?ニュースを見て感じました。
かかりつけ患者さんの「定期処方」について、修正の必要が無ければ、遠隔診療でかまわないかもしれません。ですが、病状の落ち着いている方からも、「先生に会って、診察してもらって、また1か月安心して働けるよ」と言って頂くことがあります。個人的にはそうした一言に、うれしさを感じますし、そうした診療を意識して日々業務にあたっています。テレビ画面越しに「心配ないですよ」と言われて患者さんの不安は解消するのだろうか?遠隔診療を推進する「議員さん」は、医師とそうした診療関係を経験したことが無いのではないか?とさえ思ってしまいます。
また、かかりつけの方でも、発熱や疼痛といった「急性症状」については、やはり「身体診察」は必須だと感じます。
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この方の診察では、首の触診が決めてとなりました。熱を作る臓器の「甲状腺」が原因と判明し、治療を開始しています。感染を心配し続けていた患者さんからは、とても感謝されました。
身体診察は、診断の「核」であり、それをしない診療は「質が落ちる」ことを利用者の方も理解していただきたいと思います。
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患者さんのプライバシーを考慮し、実際の出来事を多少変更し記載していることがあります。